日本習字の臨書部の昇段試験(初段)に合格するための練習方法・ポイント
前回の日記が2020年12月15日更新。(受験前)
そして、記事を書いている今日は、年もとっくに明けて2021年3月26日。(受験後)
日記とは。
結論から言いますと、無事合格しました。
リアルタイムで作品作りの実況でもしようかと思っていたのですが、他のことをしていて手が付かなかったりしてバタバタしていました。すみません。
今回は、実際の日本習字の臨書部の昇段試験内容や、試験に合格するために抑えておくべき王羲之のポイントや練習方法について書こうと思います。
実際に臨書部の昇段試験(初段)では何をするの?
初段・二段の臨書部の昇段試験では、楷書or行書のうち1課題を提出します。在宅受験です。(会場に行ったりする必要はありません。)
課題となる出典が何かは事前に知らされます。(12月くらい?)
今回は楷書が「九成宮醴泉銘」、行書が「集王聖教序」からでした。私は行書で提出しました。
実際の試験では、筆で書かれた手本を見るのではなく、拓本(石碑や青銅器などに彫られている文字を写し取ったもの)を見て、①字典で解釈して、②無罫半紙に体裁よくまとめる、までを行います。

実際の試験ではこんなに長くなく、4文字だけです。
①字典で解釈
「書道字典」という、昔の書道家ごとにどのような字を書いたか、という字典があるので、それを引いて調べます。
拓本は、石碑や青銅器自体が風化して文字の一部分が欠けている場合があるので、字典を引くのをおすすめします。
②字典の文字を写し取り、手本を作る
「書道字典」で該当する書道家の文字を見つけたら、印刷します。
印刷した文字を紙面にバランスよく配置して、お手本を自作します。
バランスよく配置する、というのは、「拓本そのままの位置にする」のではなく、「半紙に収めた時にバランスよく見えるか」を重視します。課題の拓本は、一部を切り取っているだけなので、配置がバラバラになっています。それを、半紙の上で見せるように配置しなおします。

上の画像は、字典で引いた文字(この課題の場合は王羲之)を並べ替えて作ったお手本です。拓本とこれを参照して、作品を作っていきます。
ちなみに、課題の拓本では「金」の位置が「掩」に比べてだいぶ下になっており、「容」は少し上に書かれていて「金」と「容」の間が詰まりすぎていたので、このように配置しました。
課題の拓本と比べると、「金」を上にあげ、「容」をやや下にさげて配置しています。

また、無罫半紙に文字を収める時は、上下左右の余白の取り方も重視しましょう。左右はほぼ同じくらいの空間、上下に関しては上を1に対して下を1.2くらい(下のほうがやや広め)に空間を取るようにします。下の空間が詰まると、全体的に重くなってしまいます。
これは6文字でも1文字でも、条幅でも同じです。
③特徴を押さえて書く
王羲之の特徴として、以下の点が挙げられると思います。
- 左側に前傾姿勢な字形
- 偏と旁、文字と文字の間の懐を広くとっている
- 接筆しているところとしていないところがある
- 太・細がはっきりしている
- 始筆が、前画を受けているものが多い。特に、横画は逆筆になっているものが多い
見てわかるものもあれば、実際に指導を受けてみないとわからないものもありますね。
特徴1 左側に前傾姿勢な字形

パッと見で分かりそうな特徴ですね。横画の右上がりを強くしたり、縦画をやや右に傾けていたり、左払いを右払いよりも長く書くと、それっぽい特徴が出せます。「容」の字は特に顕著です。
ただ、あまり傾けすぎるとバランスを崩すので注意です。
特徴2 偏と旁、文字と文字の間の懐を広くとっている

これもよく言われる王羲之の特徴です。
今回の課題ではあまりこの要素が無いですが、「掩」の字の偏と旁は押さえておいた方が良いかもしれません。
懐を広くして明るく見せているところは、王羲之が「書に感情や思想を持ち込んだ」と言われる所以の一つと言えます。実際、王羲之は蘭亭序を書いた際、酒を飲んで気分が高揚していた…という記録が残っています。
特徴3 接筆しているところとしていないところがある

これはお手本をよく見ないと分かりません。
どの画も接筆している(くっついている)わけではなく、よく見ると離れていたり、くっついていたりします。また、「口」や「田」など、最終画が横に出ているのか縦に出ているのかも見てみましょう。
あえて点画を離すところは、先ほどの特徴「懐を広くする」同様、空間の取り方を意識しています。
特徴4 太・細がはっきりしている

それぞれの文字や、文字の中の点画を見て、どの文字(点画)の線を太くしてどれを細くするかを確認しましょう。
原則として、画数の少ない文字・最後の文字の線は太くなることが多いです。ここでも例にもれず、画数が少なく最後の文字である「色」が太めの線で書かれています。
とはいえ、太くすることを意識しすぎて全体のバランスを崩さないように注意しましょう。「色」の線を太くしすぎて、「色」だけ浮いてしまうことのないようにしてください。
特徴5 始筆が、前画を受けているものが多い

行書なので、点画と点画のつながりを意識する必要がありますが、王羲之の場合はさらに「逆筆で入る」場合もたびたびあります。
上の「金」の字の7画目(右の点)から8画目(横画)へつながるとき、8画目は7画目を受けて逆筆で入っています。
いったん逆筆で入りますが、横画を書くときはいつもの角度(10時の角度)に筆を戻します。ここのところは、隷書と似ていますね。
滲む半紙なので、扱いは難しいですが、線の表現の幅が広がります。練習用にどうぞ。 |
昇段試験に提出する落款について
落款は半紙の左に「○○臨」と書き、落款印はいりません。
自分の名前に限らず、雅号を使って提出することも出来ます。
普通は小筆ではなく、臨書に使った大筆でそのまま落款を入れます。筆を立てて書くと、細い線で書けるかと思います。
落款を入れるときについて注意点を書くとしたら
①落款と文字がぶつからないように注意。
②落款は臨書した後に入れるものなので、墨継ぎをしないで書く(そこまで厳しく審査されるのか分かりませんが…)
くらいですかね。
まとめ
臨書部初段の試験は、だいたいこんな感じです。
今まで、拓本を臨書した手本を見て臨書していたので、拓本から字書で解釈して…という作業は、なかなかに大変でした。
が、今までの指導で王羲之の特徴はそれなりに掴んでいた(つもり)なので、こういうポイントを押さえれば良い、というのはなんとなくわかりました。まあ、特徴を知っていても、それを表現できるようになるには時間がかかるんですが…。

最後に、3か月ぶりに軽く書いてみたもの。(スキャン用にコピー用紙に書いたので、線質が荒いのはスルーの方向で…)
こうして見ると、「掩」の字の大の2画目を大きく入るべきだったとか、「色」に対して「容」が小さいとか、ツッコミどころが満載です…。
が、ある程度ポイントを押さえていれば、初段は合格できるでしょう!