固まった習字の筆のおろし方
書き初めや年賀状で、久しぶりに筆を執る機会が出てくる時期になりました。
習字・書道で、書いている途中で筆の穂先が2つに割れてしまったり、筆の弾力が生かされず繊細な表現ができない、そんなシチュエーションはありませんか。その答えはずばり、筆の穂先があまりおりていない(筆の付け根が固まってしまっている)ためです。
習字教室、特に学校では、筆を洗う時間が限られていたり、帰宅するまでに固まってしまったりする場合が多いです。学校では休み時間が短いので、致し方ないのですが…。
早速、筆のおろし方を説明します。
筆のおろし方

上の写真は洗ってすぐの筆です。穂先の墨は落ちていますが、筆は半分ほどしかおりておらず、このままでは非常に書きづらいです。筆の付け根で古い墨が固まっているので、これを洗い落としていきます。
手順① ペットボトルの水に、半日ほど浸ける

ペットボトルに水を入れ、そこに筆を半日ほど突っ込んでおきます。これで固まっていた部分が柔らかくおりるはずです。半日では不十分だった場合、もう少しだけ浸けてみましょう。
このとき絶対にやってはいけないのは、お湯に浸けてしまうことです。荒業として、ぬるま湯に筆を浸ける方法を紹介している先生や本などはありますが、筆を熱湯に浸けてはいけません。また、毛先にダメージを与えてしまうため、筆の穂先を流水に直接当てないでください。

上の写真は、水に5時間浸けた様子です。めっちゃ汚い。最初に書いた通り、この筆は一旦洗った後におろしているのですが、それでも付け根あたりで古い墨が固まっていたことが分かります。洗い方が十分でなかったというわけですね。
5時間ではまだまだ筆がおりていないので、引き続き水に浸けます。
手順② 筆の付け根を持って、墨を洗い落とす

半日ほど水に浸けたら、だいぶ筆もおりるようになったかと思います。写真の筆は、半分ほどしかおりていない状態から3分の2おりた状態まで復活した様子です。筆の付け根を揉むと、カチカチだった状態から少しだけほぐれた状態になっています。

次はペットボトルから筆を取り出し、水道で洗いに行きます。
ポイントは筆の軸ではなく筆の付け根を持ち、穂を流水に直接当てないように筆を洗面台に軽く押しつけるように洗うことです。付け根で固まっていた墨がどんどん落ちていきます。このとき、穂先がねじれないように筆の軸から回しながら毛先をまっすぐにし、万遍なく洗い落とします。筆の軸を回さずに万遍なく洗おうとすると、穂先がねじれてしまうので注意してください。

固まっていた墨を落とすと、上の写真のように筆の付け根が水を含み太っていきました。筆がだいぶおりた証拠です。
手順③ 筆の付け根から穂先にかけて水気を絞る

半紙で穂を覆って、付け根部分から水気をしっかり絞ります。付け根から穂先にかけて水気をしっかり絞ったら、毛先をまっすぐに整えます。毛先を整えるときは、ねじれないように注意しましょう。
手順④ 筆を日陰で一晩吊るす
穂先を下にして、筆を風通しの良い日陰で一晩吊るして乾かします。軸についている輪っかを洗濯ばさみで挟んで乾かしても構いません。
書き心地はいかに?
筆がしっかりおりたことにより、穂先が割れなくなったり、弾力が生かされて結びや細い線など繊細な表現がしやすくなったかと思います。
それでも穂先が割れたり表現が上手くいかない場合は?
筆をしっかりおろしても穂先が割れたり、細い線が書きにくかったりする場合もあります。
その原因は、穂先が摩耗していたり命毛が無くなっていたりする場合が多いです。筆も消耗品ですので、おろしても改善されなかった場合は筆を新調した方が良いかもしれません。
追記 筆の穂先はどれくらいおりている方が良い?
教育習字において、作品を書くための大筆は穂先から3分の2、記名用の小筆は穂先から2分の1おりているのが理想とされています。
※筆者は大筆は4分の3ほどおろしています。
特に小筆は、シンクの水たまりくらいの水で十分洗えると言われているため、気付いたら大部分が墨で固まっている場合があります。小筆をおろす場合は、穂をすべて水に浸けるのでなく、穂先3分の2だけ水に浸けるくらいが経験上使いやすくなるかと思います。(小筆はおろし過ぎると書きにくい)
「小筆は洗う必要があるのか」議論はたびたび見ますが、個人的には細めの流水で洗った方が良い派ですかね…。水滴で洗う程度だと墨が固まってしまいますし。
追記② 新品の筆のおろし方
新品の筆は、穂が糊で固められています。絶対に糊が付いたまま書き始めないでください。
筆を洗う要領で穂先全体の糊を落とし、筆の付け根から穂先にかけて水気をしっかり絞ってから書き始めましょう。水気を切ってからでないと墨が薄くなってしまいますからね。
このときも、穂先を流水に直撃させてはいけません。
新品の筆は品質管理のためプラスチックのキャップが付いていますが、使うようになってからは必要ありません。捨てましょう。
濡れた筆にキャップをして保管すると、筆の毛が腐り、切れ毛の原因になります。